・2011年3月の東日本大震災以降、緊急通報、安否確認、ソーシャルメディア上の情報の取りまとめなど、ICTを活用した防災等に役立つサービスが、官民問わず数多く取り組まれています。
・また、本年4月に発生した熊本地震から約半年が経過する中で、改めて災害時におけるICTを活用した情報発信・情報収集の現状と課題について、お二人の先生から御講演及び対談をいただきました。
・さらに、県内自治体・民間企業様から、災害時におけるICTを利活用した取組事例について紹介していただきました。
・聴講者の数は、前回(5月開催)の約110名を超える約140名の参加をいただきました。テーマが『防災×ICT』ということもあり、本協議会会員だけでなく、県内の消防本部関係者、老人介護施設関係者、障害福祉施設関係者、幼・保・学校関係者など、一般申込から約60名の参加がありました。災害時に「ICT」をどのように利活用するかが重要となっているかを感じさせられた講演会となりました。
・以下、講演会の概要についてまとめていますので、ご覧ください。
演題「Yahoo!JAPANにおける災害情報の取り組みと
インターネットにおける情報発信の課題」
講師 田中 真司(たなか しんじ)氏
(ヤフー㈱ Yahoo!天気・災害サービスマネージャー)
<講師プロフィール>
Yahoo!天気・災害サービスマネージャー、気象予報士の資格を持つ。
民間気象会社、一般社団法人気象支援センターを経て、2008年にヤフー株式会社に入社。
2012年からYahoo!天気・災害サービスマネージャーとして活躍。
気象会社での予報実務経験を基に、インターネットにおける天気と
災害情報の新たな見せ方に取り組む。
800万人が利用するYahoo!防災速報と、国内で2500万ダウンロードされている
Yahoo!天気アプリの責任者として、スマートフォンアプリを中心に、
天気と防災情報の伝達を推進する。
<講演の概要>
田中氏は以下の流れで講演されました。
①担当されている業務内容(Yahoo!天気・災害、Yahoo!防災アプリ等)の紹介と課題
②熊本地震におけるYahoo!JAPANの取組及び改めて感じられた課題
1996年 Yahoo!お天気サービス開始 ※災害情報サービスには対応していない
2004年 防災情報サービス・災害モジュール掲載開始 ※2004年新潟中越地震を教訓に開始
→ 地震・火山・津波の情報発信、Yahoo!全サービスの上部に情報掲載可能に
Web掲載だけでなく、スマホへのプッシュ通信・携帯電話へのメール配信も
2005年 Yahoo!災害情報サービス開始
→ 気象災害に限らず、人為的災害等の情報を発信
2008年 スマホWebサイト提供開始 ※2008年iPhone販売日
2010年 Android用スマホアプリ提供開始 → 無料天気カテゴリRANK1位
2011年 「Yahoo!天気・災害」サービス開始 ※Yahoo!天気とYahoo!災害を統合
→ 防災・災害情報を探すのではなく、日常の天気予報と共に情報を得ることを目的
東日本大震災を受けて、「Yahoo!防災速報アプリ」提供開始
(登録者数は約800万人、熊本地震後に登録者が約100万人増加)
→ 地震情報、津波情報、豪雨予報、節電・停電情報が瞬時に受け取れるように
2012年 iPhone用スマホアプリ提供開始 → 無料天気カテゴリRANK1位
最近での取組
「避難所情報」、「河川水位情報」、「土砂災害警戒情報」を整備。
「自治体からの緊急情報」を自治体が防災速報アプリで直接情報発信可能に。
防災速報情報を、「Yahoo!JAPANアプリ」や「Yahoo!ニュースアプリ」
でも同時発信可能に。(現在は4,000万通以上の同時配信ができている。)
・情報レベルによって配信エリアを設定
(例:震度5弱以上の地震は全国配信、震度4以下の地震は都道府県配信)
・難しい設定をしなくてもきちんと情報が届くようにする
→ 膨大な情報の中から、「最適な抽出、送信方法」を日々チューニングしている
◆避難情報発信時において、必ず「それってどこですか?」といった多くの問い合わせがある。
→ 基本的には自治体が発信した情報をそのまま伝えるが、
受け取った人に伝わらない情報では意味がないので、
もっと工夫して伝えることが必要である。
→ 適切な地図表現とユーザーとの位置関係を示して、
危険か安全かの判断がつくようにする必要がある。
◆配信エリアについては、基本的に「市町村単位」としているが、
広すぎて危機感が伝わらないことがある。
◆プライバシーや電池持ちの問題から現在地連動を許可しないユーザーが多い(約6割程度)
→ 地図表示などの可視化と範囲特定する仕組みが重要
→ 特定の範囲にいる人のみに通知することも可能ではあるが、
スピード・精度などの課題がある。
◆災害情報提供については、「どのような行動を取るべきか」の情報が不足している。
◆情報が多く、本当に届けるべき情報が埋もれてしまうリスクがある。
さらには、情報収集に時間がかかり、避難行動が遅れてしまうことがある。
(より詳しい情報を得ようと「待ち」の姿勢になってしまう)
◆「緊急地震速報の配信」をはじめ、基本的な情報発信を即時に対応
◆Yahoo!地図に『通行実績情報』を掲載
◆避難情報等の情報集約(開設避難所・給水所・充電スポット・入浴可能施設等)
→ 取材情報がメインで、即時に情報を共有できる仕組みがない。
◆ビッグデータを利用した解析
①スマホの位置情報を基に、普段よりも人が多く集まっている場所を把握
→ 隠れ避難所を探し出すことに期待がされる。
②検索ワードを朝日新聞社と共同で分析
→ 発災後、被災地において、どの時期にどのようなニーズがあるのか把握できる。
→ リアルタイムに知る仕組みが必要である。
◆募金の募集(約57万人から約5億円の支援金を得た)
◆全国のヤフー職員によるボランティア派遣
→ 「アスクル応援ギフト便(必要なものを電話で依頼し、
支援者が支払うと避難所などにお届けする仕組み)」の仕組みをつくり、
避難所に本当に必要なものを届けることができた。
また、「電話」という手段を採ることにより、インターネットが利用できなくても利用可能な仕組みとしたことが良かったのではないか。
◆リアルな「人」が介在しないと、良い仕組みづくりはまだまだ難しい。
◆発災後の正確な現地情報を得られる仕組みがまだない。
演題「ICT×防災×市民参加」
講師 牛島 清豪(うしじま せいごう)氏
(㈱ローカルメディアラボ 代表取締役)
<講師プロフィール>
株式会社ローカルメディアラボ代表取締役、
一般社団法人九州テレコム振興センター主任研究員、
Code for Saga代表、オープンデータ伝道師(内閣官房IT総合戦略室より任命)
1994年、佐賀新聞社に入社。営業、経営企画などの職場を経て、
メディア戦略部門のチームリーダーを務める。
2006年には、新聞社初となった地域SNS「ひびのコミュニティ」を
プロデュースするなど、ICTを活用した地域メディア作りを推進する。
2010年3月、佐賀新聞社を退職し、佐賀市で株式会社ローカルメディアラボを設立。
メディアコンサルタント、コミュニケーションデザイナー、
ウェブプランナーとして活動中。
2014年には、Code for Saga を立ち上げ、
オープンデータ活用による地域活性を推進している。
<講演の概要>
牛島氏は以下の流れで講演されました。
①ソーシャルメディアの可能性
②私が見てきた、SNS×災害
③災害時のソーシャルメディアの可能性・課題
④オープンデータと市民参加
⑤防災×市民参加
→ 防災・減災との相性がよい!
◆国内ではブログブーム。ブログでは、災害時のマスコミ取材態度に対する問題指摘も
多く見られた。
→ マスコミが流す情報だけでなく、市民が情報発信することの可能性が感じられた。
「参加型ジャーナリズム」という言葉が使われ始めた。
◆テレビや新聞では、玄海島等の被害が大きいところばかりが報道され、
多くの方から安否確認の問い合わせがあった。
→ 情報の混乱が起きているのを感じた。
◆ミクシー(当時主流だったSNS)では、「それほど被害はありませんでした」
などの情報が多く見受けられた。
→ 「マスコミ」と「市民」の情報が一緒になってこそ、全体の概要が分かる
ことを感じた。
◆Twitterの情報が活躍した。(交通機関の情報など帰宅困難者向けの情報)
→ 課題も多く発生した。
☆非公式なRT(リツート)の問題(情報の鮮度、タイムスタンプなし)
→ タイムスタンプがないので、いつの情報か分からないので混乱が広がる
☆悪意のあるデマ
☆悪意のないデマ拡散への加担
→ 「助けてあげなきゃ」という好意で、拡散してしまうことで混乱が広がる
◆ツールが多様化(Twitter・LINE・Facebook等)し、便利になった一方で、
情報流通がより複雑に。
→ さらに課題が増加!
☆フロー情報が多く、まとめられていないので、情報が探しにくい。
☆LINEで回ってきた情報をコピーしてFacebookで拡散するような、異なった
サービス間の情報伝達がなされ、元の情報をたどれなくなり、誤った情報が
拡散することが起こった。(伝言ゲームの危険性)
☆上手く活用できている自治体とそうでない自治体の温度差がある。
→ 「デマの問題」を解決するために、熊本市長は、市長自らが正しい情報を
Twitterで発信し続けた。
これらを解決するために必要なものは・・・
『メディア・リテラシー(情報と上手に付き合い、
読み解き、真偽を見極め、活用するスキル)』
↓
社会全体で、日常的に、ICT利活用と情報モラル教育を
両輪として推進していく必要!
正式名は「Open Government Data Movement」
行政・企業がデータを開放(透明性、アクセス・共有・再利用しやすく)
↓
☆データから「社会的価値」「ビジネス的価値」を生み出す
☆データが開放されることで、市民参加が促進される
◆自治体が開放した通学路の危険個所データを利用して、PTAで交通安全マップを作成
◆自治体が開放したゴミ収集日データを利用して、市民でゴミカレンダーを作成
◆市民が情報を集めたデータを利用して、市の裏探訪サイトを作成
◆自治体が開放した避難所・津波避難ビルのデータを利用して、
一般の方がマップ上に見える化
◆「消火栓オーナー制度」:
(降雪の多い地域において)自治体が開放した消火栓の位置情報を利用して、
雪をかき分けて消火栓を見つけた人は、消火栓に名前をつけることができる
というゲーム形式で行うことにより、防災に役立てる
◆「Fix My Street」:道路の陥没情報等を市民が位置情報(赤色のスポット)で報告し、
自治体がチェックし対応中は黄色スポット、修復後は青色スポットになるような取組
属性に関係なく一般の方が集まって、災害が起こった時に
「こういうサービスが必要ではないか?」、「このサービスを作るためには、
自治体はこういうデータを出してくれる必要がある」など、
皆でグループワークを行うもの
災害に、しなやかに対応していける国づくりを進めていこうという活動。
国や自治体だけでなく、いろいろな参加者によるコミュニティ形成を重視している。
「減災インフォ」は減災のための情報発信・収集や、セクターを超え
協働を深めるプロジェクト。
→ フロー型情報を効率的に集めていくかにチャレンジされている
「TKM47(地域キーマン47都道府県)」は、市民参加型の
防災減災全国ネットワークを作り育てる活動。
→ 支援していただく方への正しい情報発信を行うための
ネットワークを構築している
大規模災害が起きた際に世界中のマッパーが、
その地域のオープンストリートマップ(OSM)を充実させるために、
航空写真をベースに地図を書く支援。プリントアウト等の制限がないため、
被災地で活用しやすい。
市民一人ひとりが情報発信者になる可能性は無限にある。
ただし、使い方を間違えると大変なことになる。
正しい使い方を日ごろから認識をしつつ、マスメディアの情報だけに頼らないような
情報空間を作り上げていくことが重要になっていく。
これからどんどん開放されていくデータを活用し、自分ごととして活動に参加して、
「どう活用して、どういう解決策につながるか?」を考えていくことが重要になっていく。
両者に共通するキーワードは『市民参加』
自治体・メディアに任せるのではなく、
市民一人ひとりが防災・減災について考えて行動していくことが大事
内 容 県内自治体・民間企業における災害時の情報発信取組事例の発表
発表者 ①ソフトバンク株式会社 ②株式会社ケーブルワン ③佐賀県消防防災課
◆災害特別番組
◆防災チャンネル(365日コミュニティチャンネルにて放送)
◆防災チャンネルWebサイト(加入・未加入問わず無料で利用可能)
対談者 田中 真司 氏、牛島 清豪 氏
<対談の概要>
以下の流れで対談を行っていただき、
参加者の皆さんに「防災×ICT」について理解を深めていただきました。
①情報系防災サービスの多様化について
②いつも問題になる"デマ”対策は?
③ICT×防災への市民参加の可能性について
④参加者からの質疑応答
◆家族間での連絡手段としては、共通のサービスを利用する
◆確実に連絡を取り合えるように、複数のサービスを利用できるようにしておく
◆自分に必要な情報が得られるように、位置情報を確実に設定しておく
◆ローカルな情報発信ほど、追加情報が多いので重要
◆悪質なデマ情報発信者については、社会が毅然とした対応を取ることも必要
◆Yahoo!サービスにおいて、過去に「悪ふざけ投稿」を行いがちなユーザーについて、
技術的に絞り込むことは可能ではあるが、それをどの程度まで行うかの問題がある。
◆他のSNS等のサービスにおいて、デマ発信者を絞り込むことは不可能だと思う
◆Yahoo!ニュース編集者は、一日に何千本も記事を見てピックアップしているので、
Yahoo!ニュースに上がっていない情報については、「デマ」ではないか?と
判断することもありではないか。
◆Yahoo!では、情報の裏どりをきちんと行い、デマ情報の流出をニュースで発表している。
しかし、有事の際はきちんとした裏どりが難しい場合は多い。
◆情報の一次ソースを意識するようなリテラシー教育が必要かもしれない
◆有事の際は、精神状態が普通でないので、冷静な判断ができないことは否めない。
しかし、こういう時こそ冷静な判断ができるようにすることが重要になってくる
◆市民参加型のサービスについては、まだまだこれからだと思っている。
◆使える情報は加工して使いやすくすることは得意なので、
よりオープンにしていければと考えている。
Q1:民間企業の、防災減災への取り組み事例は?
A1:発災時に社員がどう動くか(どう情報をやり取りする)をルール化している
企業があります。
Q2:スマートフォンの使い方(特に学生のリテラシーの低さ)はどうにかならないのか?
A2:「こういう(悪い)使い方をするとこういう(逮捕されるなどの)結果になるよ」
といったことを伝えていく必要があるのではないか。また、学校において情報発信・
収集についての訓練を入れるのも必要ではないかと思います。
しかし、現在の学生は「情報」の授業を履修しているので、
逆に大人の方がリテラシーが低い方が多くて、これも課題ではないかと思います。
Q3:OSM(オープンストリートマップ)×国土地理院地図の可能性
A3:国土地理院地図はライセンス的に使いやすい形になっていて、
実際に国土地理院地図を下敷きにしてOSMを作成することもあります。
Q4:OSMなど、無償の活動をどこまで信頼してよいのか?
A4:皆で良いものを作ろうと、より多くの人が集まって成り立っているものなので、
荒らそうとする者がいるかもしれないが、
自浄作用により信頼できるものができると信じています。
Q5:自治体の温度差、これに個人で働きかけるには?
A5:地域における課題(困っていること)に関する活動に積極的に参加し、その地域
課題を自治体に提案し続けていくことが重要だと思います。
Q6:位置情報の信頼性について
A6:最近のGPSの制度は格段に上がっている。信頼してよいと思う。
Q7:火災情報 → あんあんメール(佐賀県のメールサービス)
A7:Yahoo!防災速報アプリで自治体からの緊急情報を発信できるので、
各自治体の皆さんは、ぜひ活用してほしい。しかし、情報の種類、重要度、回数等
十分に検討していただく必要がある。
Q8:万人に情報を伝えるためには(特に年配層)
A8:インターネットだけでは、年配層の被災者には伝わらない。
実際、被災地の現場では、ガラ携ユーザーや携帯を持っていない人の方が多い。
プリントアウトした情報を掲示板にはったり、アスクル応援便など電話でできる
ことなど、アナログな支援とのバランスを考えていかなければならないと思う。
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