平成30年度第1回ICT利活用講演会を、2名の講師をお招きして開催しました。
講演Ⅰ キャッシュレス社会の実現に向けて(14:30~15:15)
講師 本屋敷 賢治(もとやしき けんじ)氏 (三井住友カード株式会社公共・金融法人営業部長兼地域振興室長)
(講演される本屋敷氏)
主な内容をまとめています。
・当社・当社関連グループの概要
・当社の佐賀県における取組の紹介(2017年度)
・日本はキャッシュレス「後進国」→韓国は約9割、中国は約6割がキャッシュレス
・キャッシュレス社会の到来→経済産業省は2025年までにキャッシュレス決済40%を目指す
・最新の決済トレンドの紹介 「モバイル決済」「QRコード決済」「生体認証決済」「無人店舗(amazon goの映像)」「無人レジ決済店舗」「キャッシュレス店舗」「事前予約・決済」「配車・配達サービス」 → 経済活動・消費行動には決済はつきもの。キャッシュレス環境は今後も進化・拡大を続け、それに伴う決済シーンも増加。
・キャッシュレスの主な意義→消費者のメリット、事業者のメリット、公共的観点におけるメリット
・決済を巡る環境の変化(AIの進化、キャッシュレスリテラシー層・スマホネイティブ層の増加、インバウンドの増加)
・キャッシュレス環境整備による効果
①長野県野沢温泉村の約30店舗でキャッシュレス化に対応し、冬期シーズンの決済額が約6500万円増加
②機会損失の防止(外国人は現金を使いたがらない)
③非計画購買を促進させる(現金購買よりカード決済は購買単価が1.6倍)
・佐賀県主導によるキャッシュレス化推進の取組 → キャッシュレスの意識が高く、意欲的に取り組んでいる先進県(官民が一体となった取組が重要)
講演Ⅱ 第4次産業革命と九州地域産業の戦略 ~佐賀県の戦略~ (15:25~17:05)
講師 藤野 直明(ふじの なおあき)氏 (野村総合研究所主席研究員)
(講演される藤野氏)
主な内容をまとめています。
1.IoTや第4次産業革命、いわゆるデジタライゼーションは、九州地域の中小製造業の課題解決に直結し、大きな可能性をもたらすものである。
・地域製造業の目下の課題は、「人手不足、事業承継と技術継承、さらにグローバル経済を前提とした成長」といわれている。これらの課題全ての解決に、デジタライゼーションが有効である。
・「人手不足、事業承継と技術継承、さらにグローバル経済を前提とした成長」が難しい理由は、製造業の業務が、経験知や匠の技に依存していたために、形式知化、組織知化、システム化が難しく、技術移転が難しかったからである。
・デジタライゼーションは、地域製造業業務の「形式知化、組織知化、システム化」を可能とする。このため、デジタライゼーションは地域製造業の課題解決に直結するのである。
2.地域製造業の主な業務は、QCD(Q:品質管理、C:原価管理、D:納期管理)である。これらの経営技術や生産技術を、S:スケーラブル(技術継承・技術移転)に展開できる仕組み構築が、今、重要である。
・現在地域製造業では、エクセルやアクセスなどを中心にした管理が行われているケースが多く散見される。しかしながら、これでは、技術継承が容易ではなく事業のスケーラビリティの確保は難しく、現場の経験と勘で業務水準を維持しているのが実情である。経験者がリタイアした後で、品質管理能力、納期管理能力、原価管理能力が劣化して事業運営に支障が出てきている企業も散見される。
・これらの業務は、ERP(製造業基幹システム)、SCM(供給連鎖管理)、PLM(製品設計~生産設備やライン設計~製造管理他)、MES(生産実行管理)などの業務ソフトウェアで管理できる。海外では、日本の製造業業務の分析や研究を踏まえて、APICSなどのグローバルな教育機関において業務の標準化が進んできた。
3.各種クラウドサービスの普及により、製造業のほぼ全ての業務にわたるソフトウェアの活用が容易に、かつ安価になっている。新興国の中小企業でも本格的に活用されはじめた。先進国、日本で活用できないはずはない。
・地域中小製造業にとって、ITへの投資の敷居が高かった理由の1つはファイナンスである。土地や設備は担保になるが、IT投資は担保にならなかったため、融資が受けられにくかったことも背景にあると考えられる。このため、日本の製造業では、現場の経験知や匠の技に多くを依存してきた。現場の方々の工夫や苦労は賞賛に値できる。
・しかしながら、各種クラウドサービスの普及により、製造業のほぼ全ての業務にわたるソフトウェア(IoT、ビッグデータ、人工知能、ERP、SCM、PLM、MES、プロジェクトスケジューラ他)の活用が安価で容易になってきている。
・東南アジアや新興国の中小企業でも本格的に活用されはじめた。先進国、日本で活用できないはずはない。
4.今後、ますます製造業のデジタライゼーションのスピードが加速することが予想される。理由は、製造業の基盤産業のモジュール構造化とモジュール間インターフェイス(IF)の国際標準化により、当該産業にグローバルエコシステムが形成され、多数の企業から構成されるオープンイノベーションが加速すると考えられるからである。これは、大きな事業機会をもたらすとともに、大きな脅威でもある。
・IoTやインダストリー4.0は、産業政策として、製造業の基盤産業(製品設計、製造設備設計、生産ライン設計、製造実行指示、製造モニタリング、各種カイゼン他のQCD実現のためのソフトウェアを含む製造業支援の産業)のモジュール構造設計とモジュール間IFの国際標準化を推進している。
・モジュール化とモジュール間IFの標準化により、競争と協調のあり方が大きく変化する。これは、かつてのPC産業でおきたことを想起すれば容易に理解できる。競争はモジュールの開発とモジュールの組み合わせ(コーディネーション)事業である。
・PC産業では、DOS/Vパソコンの出現で、モジュール化された部品産業と組み立てのみを行うブランドホルダーに産業が大きく区分され、市場が急拡大すると同時に価格が低下し、産業規模が急拡大したわけである。
・イノベーションは、モジュールの組換えで実現され、市場が可視化されるためイノベーションのための投資リスクが軽減され、ファンドやVC(ベンチャーキャピタル)などの投資が進むという好循環が生み出された。
・こうして、産業構造の変化とプレイヤーの転換が実現した。まさに産業のグローバルなエコシステム(生態系)が創造され、オープンな(国際標準のモジュール構造を前提にした)イノベーションが加速していったわけである。
・同様の急速な変化が製造業の基盤産業で起こる可能性が高い。グローバルなエコシステムを活用できるということでは大きな事業機会でもあり、発展のスピードが加速するという意味では、取り残される危険性も高くなり、脅威ともいえる。
5.グローバルな製造業の基盤産業の動向について情報収集・テスト・検証、教育できる拠点(実証ラボ)の整備が効果的である。
・各種クラウドサービスの普及により、製造業のほぼ全ての業務にわたるソフトウェア(IoT、ビッグデータ、人工知能、ERP、SCM、PLM他)の活用が極めて安価で容易になってきている。
・しかしながら、ITサービスについては、手厚い営業が当然と考える日本の地域製造業からみると、クラウドサービスは「誰も営業に来ない」ために存在に気がつかないことが問題である。
・自ら調査をし、情報を収集することが重要となる。このため、こうしたグローバルで安価なクラウドサービスについては、公的な機関による情報収集や、教育トレーニング機能の拠点整備が非常に重要となる。
・実際、国際標準の製造業業務についての公的機関での教育は、欧米はもとより、南米、ロシア、東ヨーロッパ、アフリカを含め、東南アジアにおいても充実しはじめている。
・一方、日本では、製造業業務についての教育機関は乏しく、例えば、国際標準の製造業業務知識であるAPICSの知識体系についても、数年前に日本生産性本部で普及の体制が採られるまでは、公的教育機関は全くなかった。
・先進国日本でも、こうしたクラウドサービスの活用が地域製造業にとって有効であり、経済性を考えても活用できないはずはないと考えられる。
・デジタライゼーションを体験できる実証ラボ、テストベッドが地域産業政策として世界中で整備されている。佐賀でも整備すべきではないか。
・佐賀県のIT産業は、地域企業のIT部門のエージェントとして、大きな役割を担うことが期待されている。世界最先端のソリューションを、顧客とともに評価し活用する技術を、他地域よりも早期に培えば、日本の他地域へも進出できる可能性は高い。
6.さいごに
・幕末佐賀藩は、薩長よりも圧倒的に優れた技術力を有していた。技術を持ち、また、世界情勢に明るかったからこそ、ひとり冷静な佐賀藩は難しい判断を迫られた。決して日和見主義ではない。150周年を迎えた今こそ、佐賀人として、幕末の佐賀藩の技術力とマネジメント力を高く評価したい。
・佐賀にデジタル精錬方をつくろう!
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